聖書と歴史の学習館

第三の災いブヨの大群が
エジプトを襲う

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第三の災い――小さな虫が示した神の力

ファラオが、モーセとアロンによるイスラエルの民の解放要求を頑なに拒み続けたため、神は第三の災いをエジプトに下されました。

アロンが神の命令に従い杖で地の土を打つと、足元のチリは無数の小さな虫へと変わり、それらは一気にエジプト全土に広がっていきました。 人にも家畜にもまとわりつくその虫の大群は、絶えず刺し続け、人々の日常生活を大きく脅かします。 宮殿であっても、家畜小屋であっても、この災いから逃れることはできませんでした。

これまでの災いでは、王室の魔術師たちも秘術を用いて似た現象を起こしてきました。 しかし、この第三の災いにおいては、彼らはついに同じことを再現することができません。 そして魔術師たちは、ファラオに向かってこう告げます。

「これは神の指の働きです」

それは、人の知恵や技術を超えた力が確かに働いていることを、彼ら自身が認めた瞬間でした。 ところが、それほど明確なしるしを前にしても、ファラオの心はなおも頑ななままでした。 彼はモーセとアロンの要求を聞き入れず、態度を改めようとはしなかったのです。

この第三の災いは、圧倒的な破壊力ではなく、取るに足らないほど小さな存在を通して、神の主権と力が示された出来事として印象的です。 人が見下しがちなものによってこそ、逃れられない現実が突きつけられる――そんな深い示唆を含んだ災いだと言えるでしょう。

※聖書では「ブヨ」と訳されることが多いですが、原語が具体的にどの昆虫を指しているかは明確ではありません。 そのため、「しらみ」「蚊」「蚤(ノミ)」などと訳される場合もあります。 いずれの場合も、人や家畜を刺し、不快と苦痛をもたらす小さな虫である点は共通しています。


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科学的・環境的視点から読み解く「第三の災い」

第三の災いで描かれる「土が小さな虫に変わり、人や家畜を刺すほど大量発生した」という描写は、超自然的な出来事として語られる一方で、当時の自然環境を踏まえると、一定の現実性をもって理解することもできます。

古代エジプトは、ナイル川の定期的な氾濫によって豊かな農地が形成される一方、湿地や泥地が広がりやすい環境でもありました。こうした土地は、蚊・ブヨ・ノミ・シラミなどの小型の吸血性昆虫が繁殖するのに極めて適した条件を備えています。

とくに、氾濫後に水が引いたあとの泥やチリは、虫の卵や幼虫が一斉に孵化する温床となりやすく、気温や湿度の条件が重なれば、短期間で爆発的な増殖が起こることもあります。「地のチリが虫になった」という表現は、こうした現象を象徴的に言い表している可能性も考えられます。

また、第二の災いである「カエルの大量発生」が生態系を乱した結果、昆虫を捕食する生物が減少し、その後に虫が異常繁殖した、という連鎖的な解釈も成り立ちます。自然界では、一つのバランスが崩れることで、次の異変が連続して起こることは決して珍しくありません。

ただし、ここで大切なのは、聖書が「自然現象を説明すること」そのものを目的として書かれているわけではない、という点です。たとえ自然のしくみを通して説明できる可能性があるとしても、物語の焦点は、「なぜこの時に」「なぜこの規模で」「なぜエジプト全土に」起こったのか、という点にあると考えられます。

第三の災いでは、人の手では止められず、予測も制御もできない形で、小さな虫が国中に広がりました。それは、自然の力そのものが神の支配のもとにあることを示す出来事だったと受け取ることもできるでしょう。

実際、王室の魔術師たちは、これまでの災いとは違い、この現象をまねることができませんでした。彼らの技や知恵が及ばないところで出来事が起こっている。そのことを、彼ら自身が認めざるを得なかったのです。

このように第三の災いは、「奇跡か、自然現象か」という二者択一で考えるのではなく、自然そのものを通して働く神の力が示された出来事として読むとき、この物語は、より身近で現実的な意味をもって迫ってくるように感じられます。

旧約聖書

主はモーセに言われた。「アロンに言いなさい。『杖を差し伸べて土の塵を打ち、ぶよにさせてエジプト全土に及ぼせ』と。」彼らは言われたとおりにし、アロンが杖を持った手を差し伸べ土の塵を打つと、土の塵はすべてぶよとなり、エジプト全土に広がって人と家畜を襲った。魔術師も秘術を用いて同じようにぶよを出そうとしたが、できなかった。ぶよが人と家畜を襲ったので、魔術師はファラオに、「これは神の指の働きでございます」と言ったが、ファラオの心はかたくなになり、彼らの言うことを聞かなかった。主が仰せになったとおりである。

旧約聖書/出エジプト記8章12節~15節
Column

ゲブ/GebThe god of the earth

ゲブ/GebThe god of the earthの写真

 

古代エジプトにおいて、大地そのものは神格化され、「ゲブ」という神として崇拝されていました。人々が立ち、作物が育ち、死者が葬られる「大地」は、 エジプト文明の根幹を支える聖なる存在だったのです。

第三の災いにおいて、その大地のチリから小さな虫が生じ、人々や家畜にまとわりついたという描写は、イスラエルの神がエジプトの大地の神ゲブそのものを打った出来事として理解されてきました。エジプト人が神聖視していたものが、逆に災いの源となったことは、彼らの信仰体系を根底から揺さぶる象徴的な出来事だったと言えるでしょう。

特に大きな意味を持つのが、王室に仕えていた魔術師たちへの影響です。彼らは極端なまでに清潔さを重んじ、頭から足のつま先まで体毛をすべて剃り落とし、頻繁に身体を洗い、純白の亜麻布の衣を身にまとっていました。身体を清く保つこと自体が、神々に仕えるための重要な宗教行為だったのです。

その魔術師たちの身体に、逃れることのできない形で虫が付着する―それは単なる不快感ではなく、宗教儀式そのものを不可能にする致命的な状態を意味しました。イスラエルの神は、彼らの力の源であった「清さ」を奪うことで、魔術と信仰の限界を明確に示された、と理解されています。

また、神話によれば、ゲブは妻である天空の女神ヌートと固く抱き合っていましたが、大気の神シューによって無理やり引き離され、天と地が分けられたと伝えられています。この神話は、秩序ある世界の成立を語る重要な物語でした。

その「地」であるゲブが災いの源となった第三の災いは、エジプトの神々が守っているはずの秩序そのものが揺らいだことを示しています。小さな虫という取るに足らない存在を通して、エジプトの宗教的世界観が崩されていく。そこに、この災いの深い象徴性を見ることができるでしょう。

参考:明石清正氏「ロゴス・ミニストリー」他
🌱 こども向けコラム

🐜 ちいさな虫が教えてくれた大切なこと〜第三の災いのおはなし〜

むかしむかし、エジプトという国に、 イスラエルの人たちが奴隷として働かされていました。

「もう苦しい生活を終わらせてください」 そう願った人たちの声を、神さまは聞き、 モーセとアロンをエジプトの王ファラオのもとへ送ります。

けれどファラオは、 「だめだ。出ていってはならない」 と言って、聞く耳を持ちませんでした。

🌱 つちから出てきた、びっくりするほど小さな存在

そこで神さまは、三番目のしるしをエジプトにあらわします。

アロンが杖で地面を打つと、 なんと、つちのチリから、 小さな小さな虫がわき出してきました。

ブヨ、蚊、ノミ――
名前ははっきりしませんが、 人や動物をチクチク刺す、とてもいやな虫たちです。

その虫は、あっという間に国じゅうに広がり、 人にも、家畜にも、 逃げ場なくまとわりつきました。

🧙‍♂️ まねできなかった、魔術師たち

それまでの災いでは、 エジプトの魔術師たちも、 ふしぎな技で同じようなことをしてきました。

ところが、 このときは、ちがいました。

どんな魔法を使っても、 虫を出すことができなかったのです。

魔術師たちは、ついにファラオに言いました。

「これは、人の力ではありません。 神さまの働きです。」

小さな虫でしたが、 人の力にはどうしてもできないことが、 はっきりとわかる出来事でした。

🌍 エジプトの人たちが信じていた「大地の神」

エジプトの人たちは、 大地そのものを神さまだと信じていました。

その神の名は「ゲブ」。

作物を育て、命を支える大地は、 とても大切な神さまだったのです。

でも、その大地から、 人を苦しめる虫が出てきたとしたら……?

それは、 「本当に守ってくれる神なの?」 と、問いかけられているような出来事でした。

🧼 きれいでないと、神さまに仕えられない?

エジプトの魔術師たちは、 とてもきれい好きでした。

体の毛をすべてそり、 何度も体を洗い、 白くてきれいな服を着ていました。

それはただの身だしなみではなく、 神さまに仕えるための大切な決まりだったのです。

でも、虫が体についてしまうと―― どんなに洗っても、完全にはきれいになりません。

つまり、 お祈りや儀式ができなくなってしまうのです。

💡 ちいさな虫が伝えたメッセージ

第三の災いは、 大きな音も、火も、嵐もありませんでした。

出てきたのは、 とても小さな虫でした。

でもその虫は、
人の力では止められない
国じゅうに広がる
神さまの前では、だれもえらくない
ということを、 はっきりと教えてくれました。

🌟 このお話が今のわたしたちに教えてくれること

強そうに見える人も、 えらそうに見える国も、 本当は、自然や命に支えられて生きています。

第三の災いは、
「小さなものをあなどってはいけない」
「本当に大切な力は、目に見えにくい」
そんなことを、そっと教えてくれるお話です。
ちいさな虫が、
世界を動かした―
それが、第三の災いなのです 🐜✨

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