聖書と歴史の学習館

第二の災い大量の蛙が上陸

01/02

第二の災い

血の災いによってナイル川が打たれても、なお心を変えなかったファラオ(エジプト王)に対し、神は次なる手を打ちます。それが「第二の災い」、すなわちカエルの災いでした。

神の命を受けたアロンが杖を取り、ナイル川の上にかざすと、川面がざわめき、次の瞬間、無数の蛙が水中から飛び出してきました。それは数匹、数十匹という話ではありません。川という川から、まるで大地が動き出したかのように、蛙があふれ出してきたのです。

この光景を目にした王室の魔術師たちも、秘術を用いて同じことを行いました。彼らもまた蛙を呼び出すことには成功します。しかし、それは災いを止めるどころか、さらに蛙を増やす結果にしかなりませんでした。

蛙の群れは、畑や道を埋め尽くし、家々へと侵入していきます。寝室、台所、かまどの中、パンをこねる鉢の中まで、どこもかしこも蛙だらけ。人々は足の踏み場もなく、日常生活は完全に崩壊しました。

ついには王宮にまで蛙が入り込みます。床にも玉座のそばにも蛙が跳ね回る光景に、さすがのファラオも耐えきれなくなりました。

ファラオはモーセとアロンを呼び寄せ、こう約束します。「この蛙を取り去ってくれるなら、イスラエルの民を解放し、あなたたちの神に犠牲を捧げることを許そう」

モーセがその言葉を受け、神に祈ると、蛙は一斉に力尽き、次々と死んでいきました。生きて跳ね回っていた蛙たちは静まり返り、人々はようやく安堵します。

ところが、災いはここで終わりませんでした。死んだ蛙を処分しようと、人々がそれを集め、山のように積み上げた結果、国中に耐えがたい悪臭が立ちこめ始めたのです。

こうして「蛙の災い」は、悪臭という二次災害を伴ってエジプトを苦しめることになりました。生命を象徴する存在であったはずの蛙が、今度は死と腐敗の象徴へと変わってしまったのです。

やがて状況が落ち着くと、ファラオの心は再び頑な(かたくな)になりました。 彼は先ほどの約束を忘れたかのように破り、イスラエルの民を解放しようとはしません。

こうして、神の警告は再び退けられます。しかし、災いはまだ終わっていませんでした。

旧約聖書

主は更にモーセに言われた。「アロンにこう言いなさい。杖を取って、河川、水路、池の上に手を伸ばし、蛙をエジプトの国に這い上がらせよ。」
アロンがエジプトの水の上に手を差し伸べると、蛙が這い上がってきてエジプトの国を覆った。ところが、魔術師も秘術を用いて同じことをし、蛙をエジプトの国に這い上がらせた。
ファラオはモーセとアロンを呼んで、「主に祈願して、蛙がわたしとわたしの民のもとから退くようにしてもらいたい。そうすれば、民を去らせ、主に犠牲をささげさせよう」と言うと、モーセはファラオに答えた。「あなたのお望みの時を言ってください。いつでもあなたとあなたの家臣と民のために祈願して、蛙をあなたとあなたの家から断ち、ナイル川以外には残らぬようにしましょう。」
ファラオが、「明日」と言うと、モーセは答えた。「あなたの言われるとおりにしましょう。あなたは、我々の神、主のような神がほかにいないことを知るようになります。蛙はあなたとあなたの王宮、家臣や民の間から退いて、ナイル川以外には残らなくなるでしょう。」
モーセとアロンがファラオのもとから出て来ると、モーセはファラオを悩ました蛙のことで主に訴えた。主はモーセの願いどおりにされ、蛙は家からも庭からも畑からも死に絶えた。人々はその死骸を幾山にも積み上げたので、国中に悪臭が満ちた。
ファラオは一息つく暇ができたのを見ると、心を頑迷にして、また二人の言うことを聞き入れなくなった。主が仰せになったとおりである。

旧約聖書/出エジプト記 8章1節~11節
Column

ヘケト HeqeThe goddess of fertility

ヘケト HeqeThe goddess of fertilityの写真

 

古代エジプトにおいて、カエルは単なる身近な生き物ではありませんでした。ナイル川の増水期になると、大量のカエルが姿を現すことから、エジプト人たちはその姿に「生命の誕生」を重ね合わせました。

カエルは卵を数多く産み、短期間で一気に増える生き物です。そのため、胎児・誕生・多産・再生の象徴とされ、命をもたらす神聖な存在として大切に扱われていました。

こうした信仰の中で生まれたのが、カエルの女神ヘケト(Heket/Heqet)です。ヘケトは、カエルの頭を持つ女神として描かれ、出産を助け、新しい命に息吹を与える存在と考えられていました。特に王家や貴族の間では、無事な出産を願ってヘケトに祈りを捧げることも少なくなかったといわれています。

つまり、エジプト人にとってカエルとは、祝福そのものであり、カエルの神ヘケトは「命を守る女神」だったのです。

ところが、出エジプトの物語において、神はその“祝福の象徴”を用いて、エジプトに第二の災いを下しました。ナイル川からあふれ出した無数のカエルは、畑や道、家の中、王宮にまで入り込み、人々の生活を完全に破壊します。

本来は神聖であるはずの存在が、日常を壊し、恐怖と混乱をもたらす存在へと変わったのです。

この出来事は、単なる自然災害の描写ではありません。イスラエルの神ヤハウェは、エジプト人が頼りにしていた神や象徴をあえて用い、偶像崇拝が人々を守ることも、救うこともできない存在であることを明らかにされたと理解することもできます。

命をもたらすはずのカエルは、死骸となって山のように積み上げられ、悪臭を放ちました。祝福の象徴は、呪いと苦しみの象徴へと反転したのです。

第二の災いは、エジプト人の信仰の根幹を揺さぶり、「人が造り上げた神」と「生ける神」との違いを、強烈な形で突きつける出来事だったといえるでしょう。


02/02

カエルが大量発生する現象を科学的に説明できるか

カエルが短期間に大量発生する現象は、現代の生態学の視点から見ても、決して非現実的な出来事ではありません。特に、ナイル川のような大河と密接に結びついた環境では、いくつかの条件が重なることで、カエルの個体数が急激に増加することが知られています。

第一の要因は、水量の変化です。ナイル川は古来より定期的に氾濫を起こし、広大な湿地や浅い水たまりを各地に生み出してきました。こうした環境は、カエルにとって産卵と幼生(オタマジャクシ)の成長に最適な場所となります。水域が一気に広がることで、生存率が高まり、結果として多数の個体が同時期に成長します。

第二に、水質の変化が挙げられます。増水により有機物や栄養塩が流れ込むと、藻類や微生物が増殖し、それを餌とするオタマジャクシにとって好条件が整います。これにより、通常よりも多くの個体が成体へと成長する可能性が高まります。

第三の要因は、捕食者との関係です。洪水や環境の急変によって、魚類や爬虫類、鳥類など、カエルを捕食する生物の数が一時的に減少することがあります。捕食圧が弱まると、カエルの生存率はさらに高まり、爆発的な増加につながります。

これらの条件が同時に重なった場合、川辺だけでなく、周辺の農地や住居地へとカエルが移動し、人々の生活圏に大量に現れる現象が起こり得ます。実際、現代においても世界各地で、豪雨や洪水の後にカエルや昆虫が異常発生する事例が報告されています。

このように、「カエルが国中にあふれ出す」という出来事は、当時のナイル川流域の自然環境を考慮すれば、科学的にも起こり得る現象として説明することができます。ただし、実際には個体数が爆発的に増えるまでには、一定の時間的な過程が必要であったと考えられます。その点を踏まえると、聖書の記述は、出来事の本質や衝撃を強調するために、現象を凝縮して描いている可能性もあると理解することができるでしょう。

🌱 こども向けコラム

🐸 カエルが大行進!エジプトで何が起きたの?

むかしむかし、エジプトという国で、びっくりするような出来事が起こりました。 それは――カエルが大大大集合したことです。

神さまの命令を受けたモーセとアロンが、ナイル川に向かって行動すると、 川の中からカエルがぴょん!ぴょん!ぴょん!

1ぴき、10ぴき、100ぴき…… いえいえ、そんな数ではありません。 気がつくと、道も、家も、台所も、寝るところまで―― どこもかしこもカエルだらけ!

パンを作ろうとしたら、こね鉢の中にカエル。 ベッドに入ろうとしたら、布団の上にカエル。 王さまの宮殿にも、もちろんカエル。

エジプトの王さまファラオは、さすがに困ってしまいました。 「もう分かった!お願いだから、このカエルをどうにかしてくれ!」 と、モーセに頼みます。

モーセが神さまにお祈りすると、不思議なことにカエルたちは動かなくなりました。 「やったー!これでおしまいだね!」 ――と思ったそのときです。

たくさんのカエルがいっぺんに死んでしまい、 それを集めたら……山のよう! しかも、くさ〜いにおいが国じゅうに広がってしまいました。

カエルの災いは、終わったようで終わっていなかったのです。

このお話は、「神さまの言葉を軽く考えてはいけない」ということ、 そして「その場しのぎの約束は、あとでもっと困ることになる」 ということを、わたしたちに教えてくれています。

🐸 カエルはかわいいけれど、
多すぎると…大変だね!

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