日本神話「イザナギ、イザナミの物語」

イザナギとイザナミ

イザナギとイザナミの国づくり

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神話とは

神話は古くから人々の間に語り継がれている、神を中心とした物語です。 宇宙と人間、動植物、文化などの起源や創造などを神々や英雄などと関連させて説明している説話です。

神話は、実体が明らかでない内容が多く、科学的な視点からは説明し難いものです。 しかし、世界各地で、古くから人々の間に語り継がれており、絶対的なものと信じられ、 称賛や畏怖の目で見られてきた事実もあります。 そして、日常生活の規範となったり、世界各地の文化を特徴づけるものとして機能しています。

例えば、日本には、各地に神社があり、日本神話に登場する神々が祀られています。 そして、赤ちゃんが誕生したときや、七五三にはお宮参りをします。 お正月には、初詣をして、健康や長寿、安全、繁栄などを神にお祈りします。

ここでは、日本神話「イザナギ・イザナミの物語」について調べてみます。

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イザナギとイザナミの誕生

日本神話には、さまざまな神が登場しますが、中でも天地開闢(てんちかいびゃく)(※1)の際に、この世界に最初に現れた神が、別天津神(ことあまつかみ)(※2)です。 別天津神は、最も根元的な存在で、男女の性別がない特別な神々です。

※1:天地開闢…世界が初めて生まれたときのこと

※2:別天津神…五柱の神の総称。
(日本神話では、神を「柱」を単位として数えます。)

神代七代(かみよななよ)と呼ばれる時代に入ると、次第に男女の性別がはっきりと分かれた神が現れてきます。この時代には、神々の体や性が整い、愛を見つけ出し、夫婦となる神々が現れる時代です。その最後に登場したのが、男性の神「イザナギ(伊邪那岐)」と女性の神「イザナミ(伊邪那美)」です。

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女のイザナミから誘って失敗

別天津神(ことあまつかみ)は、イザナギとイザナミに、大地を完成させるよう命じます。そして、特別な矛(天沼矛/あめのぬぼこ)を二人に与え「漂っている国を治めなさい」と命じます。

国づくりを命じられるイザナギとイザナミ

国づくりを命じられるイザナギとイザナミ

その頃、大地は地と呼べないほどのどろどろの状態でした。イザナギとイザナミは、天浮橋(あめのうきはし)に立ち、矛でどろどろな大地をかき混ぜます。このとき、矛から滴り落ちたものが積もって最初の島「おのごろじま」ができます。二人は、その島に降り立ち、国づくりを始めました。

ある日、イザナギは、イザナミに尋ねます。「あなたの体はどのようにできていますか」。イザナミは「私の体には、成長して、成長していないところが1ヶ所あります」と答えます。それを聞いたイザナギは「私の体には、成長して、成長し過ぎたところが1ヶ所あります。そこで、この私の成長し過ぎたところで、あなたの成長していないところを刺して塞いで、国土を生みたいと思います。生むのはどうですか。」

その後、二人は結婚し、女性であるイザナミの方から男性のイザナギに声を掛けて、交わり、二人の子を生みます。しかし、生まれた子は、いずれも不具の子(未熟児)(※)だったので、葦舟に乗せて流してしまいました。そこで、二人は別天津神のもとに赴き、なぜ、まともな子が生まれないのかを尋ねます。すると、女のイザナミから誘ったことが、失敗であったことを指摘されます。

※最初の子のヒルコ(水蛭子)は、ぐにゃぐにゃとした蛭のような子であり、続いて生まれたアワシマ(淡嶋)は、ぶくぶくとした実体のないような姿をしていたといわれています。

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汚れてしまったイザナミ

イザナギとイザナミは、国づくりをやり直します。 そして、数々の島とそれぞれの島に住む神々を誕生させました。 あるとき、イザナミは火の神(ホノカグツチ)を生みます。 しかし、御陰(みほと/女性器)に火傷を負って死んでしまいます。 イザナギは怒り、火の神を殺すと、イザナミを比婆の山に埋葬しました。

ホノカグツチの誕生とイザナミの死

ホノカグツチの誕生とイザナミの死

イザナギはイザナミに逢いたい気持ちを捨てきれず、地下にある死者の世界「黄泉国(よみのくに)」まで会いに行きます。黄泉の国の御殿に着いたイザナギは、戸越しにイザナミに会いますが、辺りは暗く姿は見えませんでした。

黄泉の国での再開

イザナギは「あなたと一緒に創った国はまだ完成していません。さあ帰りましょう」と言いますが、 「私は黄泉の国の汚れた火で炊いたものを食べてしまったので、帰ることはできません。 でも、せっかくあなたが来てくれたのだからこの国の神と相談してみます。 その間、どんなことがあっても、私の姿は決して見ないで下さい。」と言い、 御殿の奥に入っていきました。しかし、待てど暮らせどイザナミは戻ってきませんでした。 しびれを切らしたイザナギは、決して見てはいけないという約束を破り、御殿の中に入ってしまいます。 御殿の一番奥には、イザナミが寝ていました。そこで、イザナギが見たものは、体は腐って、蛆(ウジ)がたかっており、悪臭を放つ恐ろしい姿のイザナミでした。そして、その穢れ(けがれ)から生まれた蛇の姿をした八雷神がまとわりついていました。

恐ろしい姿のイザナミ

御殿の中のイザナミ

これを見て驚いたイザナギは、逃げてしまいます。 一方、イザナミは約束を破られ、恥をかかせたと言って怒ります。 そして、黄泉の国の女の悪鬼たちにイザナギを捕まえてくるように命令します。 さらには、八人の雷神や1500人の鬼の軍勢がイザナギを追いかけますが、 イザナギは命からがら逃げ延びることができました。

黄泉の国から逃げるイザナギ

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穢れ(けがれ)から禍の神が生まれる

黄泉の国から無事に帰還したイザナギの身体や衣類、装着物には、穢れ(けがれ)が付着していました。イザナギは身体を清めるべく、阿波岐原(あわきはら)のきれいな川の岸で、上着を脱ぎ、冠や腕輪などを取り外し、身体を洗い浄めます。

イザナギは川の清い水をかぶって、身体を洗うと、身体に付いていた汚れから二人の禍の神が生まれました。

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日本神話と海外の神話との類似点

日本神話には、ギリシア神話の「パンドラの箱」や聖書の「失楽園の物語」と類似している内容や要素が所々に見られます。例えば、

  • 失敗談であり、女性が失敗していること
  • 性が関係していること
  • 不具の子やヘビの姿の神が生まれたこと
  • 火が関係していること
  • 禁を破り、穢れを持ち込んでしまったこと

などが挙げられます。

また、イザナギに付着していた穢から禍の神が生まれました。ここで「穢れ」とは、身体や行為などが、理想ではない(汚れた悪い)状態や性質になっていることをいいます。もともとこの世になかったものを、イザナギが死者の国である「黄泉の国」で禁を破ることにより、この世に(後天的に)、持ち込んでしまったものと考えられます。このことは、ギリシャ神話で、パンドラが禁を破って、箱を開けてしまったときに(後天的に)、悪や禍いなどが広がってしまったことと類似しています。また、旧約聖書の失楽園の物語で、エバが禁じられた木の実を食べてしまったことにより、人間が堕落し、悪なる世界をつくってしまったことと類似しています。


〔参考・出典〕
古事記物語(鈴木三重吉)/日本の神話 はじめての「古事記」入門(河口 英悟)/wikipedia/goo辞書/世界宗教用語大辞典