聖書と歴史の学習館

蛇の正体旧約聖書 失楽園の物語

Satan Watching the Caresses of Adam and Eve
William Blake(1808年製作) Museum of Fine Arts, Boston

蛇は英語でsnake。動物の「ヘビ(蛇)」という意味の他、「蛇のような人間」、「陰険(冷酷)な人」、「悪意のある人」というような意味(※)でも用いられています。旧約聖書の失楽園の物語でエバを騙(だま)したヘビに由来するのかも知れません。

※研究社 新英和中辞典

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失楽園の物語の中の蛇(ヘビ)

エバを騙した邪悪なヘビについて、旧約聖書の「失楽園の物語」からは、次の内容を読み取ることができます。

  • ヘビは、人間と会話ができた
  • ヘビは、食べてはいけないという神の命令を知っていた
  • ヘビは、人間を誘惑し、騙す知恵を持っていた
  • ヘビは、神に反逆する感情を持ち、行動ができた

このような観点から、古くからヘビは単なる下等動物ではないと考えられてきました。


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天使の存在

ところで、失楽園の物語では、アダムとエバ以外の人間は登場しません。人間と会話できるのは、天使だけでした。天使は霊的な存在で、人間と同じような姿(※1)をしていました。また、神の天地創造を担ったのも天使たちです。人間が成長する期間、保護者的な役割を担うとともに、被造世界(自然や宇宙)について、いかに創造されたのかを教える立場にありました。

なお、アウグスティヌス(※2)の著書「神の国」では、天使は第1日目に創造されたと結論づけられています(※3)

※1:天使は霊的には人間と変わらない肉体に相当するもの(=霊的な肉体/霊人体)を持っているとされています。

※2:アウレリウス・アウグスティヌス(西暦354年~430年)…古代キリスト教世界の神学者、哲学者。現代に通じる神学の礎を築きました。

※3:天地創造の第1日目に創造された「天」または「光」とともに、天使が誕生したとされています。


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蛇(ヘビ)の正体

旧約聖書の「失楽園の物語」には、蛇の正体そのものは記されていませんが、蛇が知能や感情を持ち、神に逆らうことができるはずはありません。上記に挙げた蛇の特性から、蛇の正体は「天使」であると考えられます。また、旧約聖書の外典や偽典では、蛇の正体について、邪悪な天使の存在を示唆しています。

邪悪な天使は「(神の)敵対者」という意味を持つ「サタン」と名付けられています。


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天使が神に反逆した理由

では、天使が神に反逆したとすると、その理由は何でしょうか。旧約聖書の外典や偽典、ユダヤ教の聖典「タルムード」では、蛇の正体は、人間に嫉妬したサタンとされています。また、イスラム教の聖典「コーラン」では、神から人間に従うように命じられたことに反発した天使が、アダムとその妻を誘惑したと記されています。

キリスト教で、サタンとされているのは、ルーシェル(ルシフェル)です。「ルーシェル」には「光をもたらす者」という意味があります。ルーシェルは、すべての天使の中で、神に最も近い存在で、神から最も愛される美しい天使「天使長」でした。さらに、神の権限の一部を行使することが許されていたとされています。

神はルーシェルをはじめとする天使たちをとても愛していました。しかし、天使はあくまでも神に仕えるもの。神の命令に従い、天地創造を行なってきました。そして、最後に神の子である「人間」が創造されました。神は長い年月をかけて、最高の愛を注ぐ対象として人間を創造されたのです。

神は、被造世界のすべてを我が子である人間に惜しみなく与え、それ支配せよと命じます。一方、天使は後から創造された人間に従うよう命じられました。

天使長ルーシェルは、天地創造で創造された被造世界(万物)は、天使に与えられると思っていたのでしょう。そして、天使長である自分が人間と被造世界の支配者になると考えていたのでしょう。

しかし実際は、正反対の状況となったため、天使長であるルーシェルは、耐えられなくなり、人間に嫉妬するようになったのです。人間が創造される前は、天使(特に天使長ルーシェル)が神から最も愛されていました。しかし、神は、天使よりも後から創造された人間に被造世界を与え、最高の愛を注いだため、嫉妬してしまったのです。嫉妬は怒りとなり、やがて反逆心へと変わっていきました。