こちらは前の記事からの続きです。
性善説を肯定すれば、本来人間は善であり、何らかの原因で、後から悪が入り込んできたことになります。つまり、性善説では、善は先天的であり、悪は後天的に入り込んできた(後天的に生じた)と考えます。
そうであるとするならば、悪はいつ入り込んできたのでしょうか。それを探るべく、人類の歴史を見てみましょう。端的にいえば、「100年前に悪があり、101年前は善であった」という事実があれば、100年前と101年前の間に何か事件があったのではと推測することができます。
人類は、いにしえより現在に至るまで、闘争を繰り返しており、人類歴史は闘争歴史ともいえます。人々は、不幸と悲しみ、苦しみに陥ってきました。矛盾(悪)を、闘争という視点で見た場合、闘争がなかった時代はありません。紀元前のギリシャやローマの時代にも戦争はありましたし、旧約聖書の中にも戦争の記録が多く残されています。矛盾のない時代を発見できないのです。しかし、人類歴史が始まった時点ですでに不幸や苦しみがあり、矛盾があったのなら、それは悪が先天的にあったことになるので、性善説に反します。
このように考えた場合、人類歴史が始まってまもなく、何か矛盾を生じるような事件があったのではないかと考えられます。
ドイツ考古学者の調査で、これまで確認された中で人類最古となる「戦争」が約6000年前にシリアで行われたことを示すとみられる遺跡が発見された。米シカゴ大学東洋研究所のクレメンス・ライヒェル氏が率いる調査隊が発見したもので、4日付独週刊紙ツァイトが報じた。
同氏によると、シリア北東部にある対イラク国境地帯の町ハモウカルで、紀元前4000年ごろによく乾燥させた粘土球が大量に見つかったという。同氏は、ウルクとみられる南メソポタミアの都市国家が北部にあるハモウカルを侵攻、粘土球を弾丸のような武器に用いて陥落させたと推測しており、「世界最古の侵略戦争の実例」と指摘している。
2007.1.4 21:00 配信 ベルリン時事通信
人類歴史が始まった頃の記録としては、世界中に神話があります。神話なので学術的な根拠は乏しいのですが、どの神話にも人間の歴史が始まった頃、世の中に悪や不幸をもたらすようになった事件(失敗談)があったという共通点があります。
ギリシャ神話「パンドラの箱」…開ける事を禁じられていた箱を、人類始祖である女性のパンドラが開けてしまったために悪がこの世に広がってしまった。
出典 | 内容 | |
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失楽園の物語 | 旧約聖書 | 人類始祖の女性エバは、決して食べてはいけないと命じられていた善悪知る木の実を食べてしまった。その結果、神は激怒し、エデンの園から追い出されてしまった。キリスト教ではこれを諸悪の根源(原罪)としている。 |
パンドラの箱 | ギリシャ神話 | 人類最初の女性パンドラは、決して開けてはならないと命じられていた箱を開けてしまった。箱の中からは、病気や憎しみ、悪だくみなど人間を苦しめるあらゆる悪が飛び出し、人間世界に広がってしまった。 |
イザナギ・イザナミの物語 | 日本神話 | 誤った結婚により、生まれてくるのはヒルのようなグニャグニャとした子やぶくぶくと実体とないような姿をした未熟児ばかりであった。結婚をやり直したが、イザナミ(女性)は火の神を生み、女性器に火傷を負って死んでしまった。死んだ後は黄泉の国に行ったが、ウジがたかるような汚れた身体になってしまった。 |
神話を見ると、人類の歴史が始まった頃、人間自身が悪や不幸をもたらすようになった事件が起こっています。その事件を起こしてしまった結果、悪が入り込み、矛盾が生じてしまったと読み取れます。特に、キリスト教では、旧約聖書の失楽園の事件において、人間は「原罪」という罪を背負ってしまい、堕落してしまったと理解されています。
※失楽園の物語は、日本ではあまり馴染みがないかも知れませんが、世界的に見たら多くの人が知っている神話です。
※善悪知る木の実は、何か毒の入ったような物理的な実ではなく、何かを象徴していると考えられます(食べた本人が生きているため)。
そして、ます。そのため、キリスト教だけでなく、仏教でも、どんな宗教でも「あなたは立派な人間ですね」などとは言ってはくれません。「罪人」、「業が深い」、「因縁がたたっている」などと言われます。要は「あなたを不幸にする原因はあなたの中に入っていますよ」ということを言わんとしているのでしょう。
キリスト教には「救い」という概念があります。堕落した人間を救って、悪や不幸、苦しみから解放するという思想です。ちょうど、医者が病人を治療し、回復させるように、救い主により、堕落した人間を本然の人間に復帰(治療)するという考え方です。
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〔参考・引用〕
世界平和統一家庭連合「原理講論」/倉原克直氏「総序」