ヘブライズムとヘレニズム

古代オリエントを源泉とする2つの文明

現代のヨーロッパ文化の源流となっているのが、ギリシア・ローマの文明とヘブライ文明である。この2つの文明は、同じ古代オリエント世界の影響を受けて発展してきたが、その性格は対極にあった。

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文明と文化

文明と文化はほぼ同義に用いられることが多く、直観的には、文明の発達ともに文化も進歩し、表裏一体のように見える。区別を明確にすべく、広辞苑を参照すると、文明が「人間の技術的・物質的所産」であることに対し、文化は「宗教・道徳・学芸などの精神的所産」と定義されている。また、「西洋では人間の精神的生活にかかわるものを文化と呼び、技術的発展のニュアンスが強い文明と区別する」と補足的な説明も含まれている。

人類歴史や社会を俯瞰してみると、文明は外的なものであり、地域や時代が限定される。生活圏と寿命が限定される人間の外面性を象徴しているようだ。一方、文化は、内的なものであり、世代を通じて伝承されていく。つまり、文化は時空を越えた概念であり、人間の内面性を象徴しているようである。例えば、黄河文明といえば、古代に黄河流域に発達した文明に限定されるが、中国文化といえば、古代から現代までの風習や伝統、思考方法、価値観などに相当する。

文明と文化は人類の進歩の両輪であり、人間の外面である身体と内面である精神を象徴しているように見える。すなわち、文明は外的なもの、物質的なもの、科学的なものであり、文化は内的なもの、精神的なもの、宗教的なものといえるであろう。

古代オリエント文明

前3200年頃、西アジアのメソポタミア地方とアフリカのナイル川流域に人類最古の文明「古代オリエント文明」が栄えた。どちらの文明も旧約聖書の主要な物語の舞台となっている。メソポタミア地方は、旧約聖書における「アダムとエバの失楽園」や「ノアの箱船」の舞台である。エジプトは、苦役を強いられていたイスラエル民族を、預言者モーセが率いて脱出した「出エジプト」の舞台である。

古代オリエント文明は、後のエーゲ、ギリシャ・ローマ、そして現代へ続く文明の源泉となった。

ギリシャ文明

前2000年頃、オリエントの影響を受けて、東地中海において、エーゲ文明(前期:クレタ文明、後期:ミケーネ文明など)が開花した。しかし、紀元前1200年頃、エーゲ文明は衰退、その後、数百年間は、記録が少なく暗黒時代とよばれているものの、人々はポリスと呼ばれる都市国家を形成し、比較的平和が続いたと推測される。このポリスが基盤となり、前8世紀頃から、文明は再び胎動を始め、前5~4世紀にギリシア文明として、最盛期を迎えた。

前4世紀、オリエント及び地中海地域は、アレクサンドロスの大帝国が築かれ、さらに前2世紀には、ローマが地中海世界を掌握するなど激動の時代を迎えたが、ギリシア文化は、綿々と引き継がれた。

西洋文明の源流となった「ヘレニズム」

古代オリエントから影響を受けて誕生したエーゲ文明は、やがてギリシア・ローマの文明へと結実していった。この一連の流れは、西洋文明の源流の一つとなり「ヘレニズム文明」とよばれる。ヘレニズムとは、ギリシア人の祖ヘレンに由来する語であり「ギリシア風」の意で使われる。

ギリシア文化の基本的な性格は人間主義と合理主義で特徴づけられる。人間主義は、人間の経験、考え、判断などを尊重する立場であり、合理主義は、論理的・科学的な思考、調和美などを重視する。つまり、人間にとって人間が最高の存在であり、人間性こそ尊重すべきものだとする。このような態度・思想・世界観がヘレニズムの根底にある。

なお、ギリシアの宗教は多神教であり、ギリシア最高峰のオリンポス山に住む、ゼウスを頂点とした12の神「オリンポスの神」が中心であったが、他にも半神の英雄ヘラクレスや、自然の中にいて人々の生活を左右する精霊や悪霊なども信じられていた。ギリシアの神は、姿形、性格ともに極めて人間的であり、ときに人間に親切であったが、怒ったり、嫉妬したり、悪意を持つ神でもあった。

※時代区分として「ヘレニズム」が使われることもある。これは、アレクサンドロスの遠征により、ギリシア文化とオリエント文化の融合によって、ローマやインドの文化にも大きな影響を及ぼした時代(前4~前1世紀)を指す。

ヘブライ文明

前2000年頃、メソポタミア・カルデア地方のウルに、ヘブライ人の偶像商のテラに長男アブハラムがいた。アブハラムは神の声を聞き、全てを捨ててハランの地に向かった。アブラハムの孫であるヤコブが天使との戦いに勝利したため、勝利者を意味する「イスラエル」の称号を神から授かり、イスラエル民族の祖先となった。

イスラエル民族はエジプトに移住し、ファラオによる苦役を受けながらも子孫を増やした。前15世紀頃には預言者モーセに率いられて、カナンの地(パレスチナ)へ脱出した。前11世紀頃、初代王サウルが統一王国を建国。そして2代目のダビデ王、3代目のソロモン王に時代には、首都エルサレムに豪華な神殿が建設され、領土も拡大。「ソロモンの栄華」と表現されるヘブライ文明が開花した。

しかし、旧約聖書によると、ソロモンが不信仰を犯した結果、彼の死後、王国は南北に分断され、北のイスラエル王国は、アッシリアに滅ぼされ、南のユダ王国は新バビロニアに征服され、民族はバビロンに連れ去られた(バビロン捕囚)。

もう一つの源流「ヘブライズム」

イスラエル民族は、苦難の中にあっても、全知全能の唯一神ヤハウェのみを固く信じた。イスラエル民族のもとにメシヤが現れ、彼らを救って神の国を建設するという選民思想を持っていた。

約50年後に、バビロンから解放されて帰国すると、エルサレムにメシヤを迎えるためのヤハウェ神殿を再興した。そして、ユダヤ教を確立し、救世主メシヤの出現を待望した。この頃から、イスラエル民族はユダヤ民族とよばれるようになったといわれる。

しかし、救世主イエスが降臨したものの、ユダヤ民族の信仰は形式化しており、イエスの教えを信じることができず、犯罪者として殺害してしまった。

唯一神のみを信じ、選民思想や救世主の降臨を待ちのぞむ精神や文化を「ヘブライズム」という。イエスの死後、ヘブライズムは、キリスト教に引き継がれた。ユダヤ教の経典「旧約聖書」は「新約聖書」とならんでキリスト教の経典となり、のちのヨーロッパ人による思想・芸術活動の大きな源泉となり、ヘブライズムは、ヘレニズムと並んで、西洋文明のもうひとつの源流となった。

西洋文化の源流の対比
 ヘレニズムヘブライズム
概要古代ギリシャに始まる人間中心の文化古代ヘブライ人に始まる神中心の文化
発祥地東地中海(エーゲ海)のクレタ島メソポタミアのカルデア地方のウル
多神教唯一神
指導精神人間中心主義・合理主義神中心主義
(自己否定/神に委ねる)
思想ギリシア哲学ユダヤ教・キリスト教
男女関係謳歌傾向厳格
DIVINE PRINCIPLE ▼
紀元前二〇〇〇年代に、エーゲ海のクレタ島を中心としてミノア文明が形成された。この文明はギリシャへ流入し、紀元前十一世紀に至っては、人本主義のヘレニズム(Hellenism)を指導精神とする、カイン型のギリシャ文明圏を形成したのである。これとほぼ同時代に、神本主義のヘブライズム(Hebraism)を指導精神とする、アベル型のヘブライ文明圏を形成したのであるが、このときが、すなわち統一王国時代であった。

出典:原理講論「メシヤ再降臨準備時代」


〔参考文献〕
岩波書店「広辞苑 第五版」/山川出版社「詳説 世界史研究」/成美堂出版「図解 世界史」/日本聖書教会「旧約聖書(新共同訳/口語訳)」/新日本聖書刊行会「新改訳聖書第三版」/世界平和統一家庭連合「原理講論」