第一次世界対戦前/中東・パレスチナ問題

第一次世界対戦前(中東・パレスチナ問題)

131年、ユダヤ戦争に敗北したユダヤ人は、パレスティナから追放され、祖国のない民となった。19世紀末のドレフュス事件が動機となり、ヘルツルが「ユダヤ人国家」を出版。ユダヤ人はヨーロッパ社会への同化によって迫害を免れるのではなく、独自の民族として国家を建設することを主張した。ヘルツルの主張は、世界中に離散しているユダヤ人に届き、パレスティナへの帰還が活発化した。


紀元
1世紀

ユダヤ人の離散(ディアスポラ)

紀元1世紀、パレスチナは、ローマ帝国の属州となっていた。ユダヤ人は、二度にわたるユダヤ戦争でローマからの解放を試みたが、いずれも鎮圧され、失敗。第1次ユダヤ戦争(66~70年)ではエルサレム神殿が破壊され、ユダヤ人による自治は完全に廃止され、厳しい民族的弾圧を受けた。第2次ユダヤ戦争では、ユダヤ人の自称である「イスラエル」という名や、ユダヤ属州という地名は廃され、かつて古代イスラエル人の敵であったペリシテ人に由来する「パレスチナ」という地名があえて復活した。多くのユダヤ人は、ヨーロッパ各地、さらには世界各地に離散(ディアスポラ)していくこととなった。

ユダヤ人の離散

約2000年もの間、ユダヤ人は祖国のない民となった
Jewish Diaspora/ユダヤ人の離散
Source:Wikimedia Commons

15世紀
半ば頃

平穏だったパレスチナ地域

1453年、コンスタンティノープルがオスマン帝国により陥落し、東ローマ帝国は滅亡した。イスラム教国家であるオスマン帝国の統治下となったパレスチナには、多くのアラブ人が入植した。

本来、イスラム教は、他の宗教に寛容で、オスマン帝国の統治下にあっても、アラブ人は、ユダヤ人を含めた他の民族と共存しながら、平穏に暮らしていた。

1880年頃~

ユダヤ人の入植がはじまる

オスマン帝国が衰退してくると、ユダヤ財閥ロスチャイルドが進めるパレスチナへのユダヤ人の入植が始まった。その頃、ヨーロッパの列強による植民地主義(※)と帝政ロシアを中心に高まってきたユダヤ人迫害(ポグロム)があり、被害を逃れるため東欧諸国などのユダヤ人がパレスチナに次々と入植してきた。離散中に商取引や金貸しなどの金融業界に進出し、財力をつけたユダヤ人たちは入植地で農園を経営。先住のアラブ人たちを低賃金で雇用し、農園を拡大していった。

※植民地主義…ヨーロッパの列強国が植民地における異民族の支配や奴隷化などは、当然で正当なことであるという考えや方針。

パレスチナでのユダヤ人(1880年代/入植初期)

パレスチナでのユダヤ人(1880年代/入植初期)

1894年

ドレフュス事件

ドレフュス事件は、フランスに起こったスパイ容疑事件。フランス陸軍参謀本部勤務の大尉であったユダヤ人のドレフュス大尉は、ドイツのスパイ容疑で終身刑に処せらた。しかし、これは、冤罪(無実の罪)であり、1896年に真犯人が現れたが、軍部がこれを隠匿。これに対し、小説家や知識人らの人権擁護派・進歩的共和派が、政府・軍部に対し、弾劾運動を展開し、政治的大事件にまで発展した。1899年、ドレフュスは釈放され、1906年に無罪が確定した。

ドレフュス事件の裁判

ドレフュス事件の裁判

1896年

「ユダヤ人国家」が出版される

ユダヤ人国家/英語版

ユダヤ人国家・英語版

ユダヤ人のジャーナリスト・テオドール・ヘルツルは、ユダヤ人問題の解決のためには「ユダヤ人は、ヨーロッパの社会と文化に完全に同化し、ヨーロッパ社会に吸収され消滅すべきである」と考えていた。しかし、ドレフュス事件に衝撃を受け「ユダヤ人国家」という書物をオーストリアで出版。ユダヤ人問題の解決は「ヨーロッパ社会への同化によって迫害を免れるのではなく、ユダヤ人が独自の民族として独自の国家を建設することによってのみ解決できる」と主張した。

19世紀
末頃~

シオニズムの活発化

ヘルツルの主張は、世界に離散しているユダヤ人に広がった。そして、19世紀末頃から、神ヤハウェとの約束の地パレスチナ(=カナン)に、ユダヤ人の国家を建設しようという運動「シオニズム」が活発化した。建国運動を推進する人たちは、「シオニスト」と呼ばれた。

※ヘルツルはシオニズムの父と呼ばれている。

※シオニズムは、エルサレム北東のシオン山にちなんで付けられた呼び名

シオニズムが広がってくると、裕福なユダヤ人がアラブ人からパレスチナの土地を買い上げるようになった。1914年には、85,000人のユダヤ人がパレスチナに入植した。まさに、ユダヤ人の国が建設されるのではないかとかという勢いであった。ここに中東問題の種の一つが植え付けられたともいわれている。


〔参考・引用〕
中経出版「池上彰の世界の宗教が面白いほどわかる本」/NHK高校講座「世界史」/国際医療協力ネットワークニュース_2009年秋号/Hiroshi UEHARA on Line「パレスチナ、土地をめぐる戦争-オスロ合意までの経緯-」/静岡県立大学 国際関係学部 宮田律「ユダヤ人の歴史概観」/ヘブライの館「イスラエル共和国の建国史」/wikipedia